立憲主義と日本国憲法 第2版 著:高橋和之

立憲主義と日本国憲法 第2版 2010.5

バランスの取れた教科書芦部憲法の後継初学者向けではない教科書として圧倒的な完成度

 

立憲主義と日本国憲法

 放送大学用のテキストがもとになってできました。ですから、初学者がいきなり読み始めてもすっと理解できる非常に良い本です。憲法の基本原理 をできる限り易しく説明することに重点が置かれており、既に勉強が進んでいる方であれば一気に最後まで読みこなせる分量です。

 

 網羅的に全論点に触れられているわけではないので、一冊で司法試験レベルをカバーするという趣旨の基本書ではありません。判例の紹介も必 要最小限度にとどまるので、判例集等で補充を。
 一読後は、日本国憲法を立憲主義の歴史的展開のなかに位置づけて理解することができるようになり、憲法は得意科目となるのではないか。そういえるほど「立憲主義」の歴史がかなりの分量をつかって書かれています。また、違憲審査基準を厳格にする要素と緩やかにする要素等が正確かつコンパクトに類型化されて整理されているところは必読です。

 

 なお、高橋先生は4人組憲法の執筆者の一人で、故芦辺先生の「憲法(岩波書店)」の改訂をされています。

 

立憲主義と日本国憲法 はしがき

 本書は、2001年から4年間に亘り放送大学で放映された講義の教材「立憲主義と日本国憲法」に大幅な修正・加筆をほどこしたものである。

 本書が最も重視した目標は、憲法の基本原理をできる限り易しく説明することである。読者に憲法独自の思考様式を習得してもらうためには、憲法の基本原理 を理解してもらわねばならない。憲法の基本原理は、憲法を組み立てている骨格である。憲法には、分野ごとに様々な理論が存在するが、それらはすべてこの骨 格の上に構成されており、骨格により輪郭を与えられている。したがって、表層的な輪郭だけ見ていても、その真の意味は見えてこない。常に骨格と関連づけた 理解が必要なのである。

 日本国憲法を構成する基本的な諸原理は、立憲主義の原理と呼ばれるが、それは日本国憲法を制定した際に突如考え出されたものではない。起源をたどればギ リシャの都市国家にまで遡り、その後の中世ヨーロッパに継受され近世を経て近代へと展開する長い歴史の中で様々な試練を経ながら少しずつ造型され確立する に至ったものなのである。ゆえに、その意味を真に理解するには、生成史を抜きにすることはできない。そのため、本書の基本モティーフは、日本国憲法を立憲 主義の歴史的展開の中に位置づけて理解することにおかれている。

 日本が立憲主義を継受したのは、明治憲法においてであった。当時、立憲主義は日本では新参の思想で、日本の伝統、日本文化の特殊性に反するものと意識さ れていた。しかし、日本の立憲主義も、今や100年を越える歴史をもち、外国文化を積極的に摂取・同化する日本文化の特殊性に支えられて、既に日本の伝統 の一部をなすに至っている。明治憲法に存在したわずかばかりの立憲主義を日本の偏狭な特殊性によって押しつぶしたとき、あの惨禍を招いたこと、その反省に たって採択した、より完全な立憲主義を基礎にする日本国憲法の下で奇跡といわれる復興と繁栄を実現し、今や圧倒的多数の国民が立憲主義の理念を支持してい ることを考えれば、立憲主義が日本の伝統となったと述べても決して過言では無かろう。日本国憲法は日本の伝統を無視した「押しつけ憲法」であるとの主張も あるが、立憲主義という「人類普遍の原理」は、日本人をも含めた人類の伝統であり、日本の特殊性もこの普遍的意義を担った伝統と調和していかねばならな い。

 伝統は、現実の憲法問題の処理に際して想起し参照することを通じて生き続ける。しかし、伝統は過去による拘束にとどまってはならない。常に未来に向かっ て開かれている必要がある。その意味で、持続的形成過程にあるものと解されねばならない。そのような伝統に基礎づけられた憲法の現実の運用形態が「生ける 憲法」である。日本国憲法を日々現実に運用していく主体は、我々日本人であり、その運用は我々の憲法理解に従ってなされる。従って「生ける憲法」が真に立 憲主義的な内容となるかどうかは、我々が立憲主義の伝統を正しく理解しているかどうかにかかっている。本書は、日本国憲法の解釈論の細部にこだわらず、立 憲主義の基本的思考方法を叙述することに重点を置いているが、その理由は、立憲主義の伝統の正しい理解こそが、日本の立憲主義のいっそうの定着を可能とす ると考えるからである。
 本書で述べた考えは、そのほとんどを先人の研究成果に負うている。本来ならオリジナルな学説の主唱者を個々的に引用すべきところであるが、本書が初学者を対象としていることを考慮して、注記を一切省略した。先輩・同僚研究者のご寛恕を請う。

 本書がなるについては、有斐閣の方々に大変お世話になった。なかでも編集部の小野美由紀さんからは、用語の選択や初学者の抱きそうな疑問などについて多 くの貴重なご指摘をいただいた。少しでも初学者に読みやすいものになったとすれば、彼女のご示唆に負うところが大きい。皆様に心より御礼申し上げる。

2005年9月  高橋和之