会社法大要 龍田節 有斐閣

会社法大要

著:龍田節 版:有斐閣 2007.5

会社法大要

 

注目。端的な叙述スタイルで読みやすい。「わかりやすい」という謳い文句の本の多くが、無味乾燥な条文の解説で終わるのと違い、この本は制度趣旨から解きほぐすので本当にわかりやすい。編成や叙述の方法に工夫をこらしてあるからだろう、読んでいて楽しい。苦手だからと薄い本で誤魔化してきた人こそ、これで勉強してみてほしい。会社法嫌いが好きになると思う。若干、判例に反対する論点があるなどくせのある教科書でもある。

 龍田先生の前作「会社法」は第10版まで改訂され続けた人気の本で、今回は、新会社法の施行にあわせて書名が「会社法大要」となった。横組・脚注方式に全面改訂されており、最新の会社法施行規則等や判例も織り込まれた。独自のリファレンス方式に慣れてくる頃には、会社法が得意になっているはずだ。はしがき(書名横の本アイコンからリンク)から著者入魂の一冊とわかるはずだ。

 

 会社法の条文構造をふまえつつも、シンプルに分かり易く説明する工夫がある。会社法が原則的形態と考えた「株主総会+取締役1人」という会社組織を「原初型」と呼び、大会社かつ公開会社という上場会社によくみられるタイプの会社を「なじみ型」と呼んで解説していく。原則としては、定款自治により会社にどのような機関を設置するのも任意である。ところが、公開会社となれば原初型とは違い株主が広範囲に及ぶ、だから経営は合議制の機関が望ましい、だから取締役会の設置が強制される。大会社は監視体制を強める必要がある、だから・・・というのが会社法の考え方で、条文構造もそうなっている。

 ところが、解説をしていくときに、この条文構造が邪魔をする。典型的な会社形態で、典型的な事例を扱う場合であるのに、「取締役会設置会社・監査役設置会社でしかも会計監査人設置会社であるる場合」と記さなければ正確ではない。これはウザイ。旧法時代からの教科書の多くが読みにくいものになっているの原因の一つだろう。龍田大要では、原初型、なじみ型と呼び全体をシンプルに解説することに成功していると思う。はしがきの8参照。

 

 条文の引用がすべて下部の脚注に回されていて、本文がスッキリしているのも斬新。

 

 

 


会社法大要 龍田節 著 はしがき

 

1.新しい会社法が2006年5月に施行された。その前に本書を完成させようと努力したが果たせず、1年遅れになってしまい、実に面目ない。「会社 法大要」というが、実質は旧著「会社法」(有斐閣法学叢書)の第11版である。新しい書名の初版本にすることで、2006年の会社法元年に協賛しようと 思った。念願の横書き脚注付きである。
 

2.新会社法に適時の対応ができなかった最大の原因は、もともの鈍足の私に加齢が重なったことである。それに加え、会社法のあまりにも激しい変身ぶりが私の理解を困難にした。
 

 

3.20世紀会社法に多くの不備があり、ここ10年ほどの波状改正がそれをよけいに目立たせた。指摘されていた制度の不完全さや概念の不明確さを是正し、 形も平仮名口語体の単行法とする、「会社法の現代化」を志向したことには十分の理由がある。同じような全面改正には1970年代にも着手し、少なくとも前 世紀中はその方向の改正を重ねた。今回の現代語化は、時間を掛けて前回の繰り返しになるのを避け、一瀉千里に実現された。不完全さや不明確さが認識される ところでは、生ぬるい部分補修を斥け、制度や概念そのものを取り壊して新築する手法がとられた。因数分解と順列・組合わせを積重ね、不純物とおぼしき要素 は徹底的に除去された。

 

4.資本の概念とか資本充実の原則などは、これまで重視されすぎてきたかもしれない。そうであれば余分のところを削るだけでよいはずなのに、1円起業を一 般化し、「会社法では資本充実の原則はありません」(<対談>「会社法の主要論点をめぐって」(企業会計58巻6号156頁、2006年)と資本制度を極 端に軽視する。財源のない配当や自己株式取得も有効だという解釈を、目立たず紛れ込ませた法文と、同時履行など脇道の議論から導こうとする。会社分割の対 象を「営業(=事業)」としてその範囲を確定するのが容易でないとなると、一挙に鉛筆1本でも会社分割手続にのせられるかのような規定ぶりにした。新会社 法は、株式会社に沈殿した常識を迷信として徹底破壊し、論理の組み合わせを最優先させて構築したように見受けられる。

 

5.法律の正確な運用にとって定義規定は重要である。新会社法はこの点に力を注いでいるが、ここにも常識を覆す傲慢さが見られる。たとえば、一人会社の単 独株主が譲渡制限株式を所有する場合でも、譲渡制限のない種類株式の定めを定款に置いたとたん、その会社は「公開会社」になる(会社法2条5号)。この奇 妙な用語を使わせられる我々日本人は、株式などが自由に取引される、閉鎖的でない会社を指すとき、何と呼べばよいのだろうか。また、法務省令におかれた定 義規定には、それを作った人でないと覚えきれず、参照の手数を増やすばかりで、本来の使命に反するものが少なくない(会社計算規則2条3項34号・36 号~39号・42号~53号・57号など)。定義さえすればよいというものではない。

 

6.「それでも地球は動く」。常識の壁を破ったコペルニクスやガリレオ・ガリレイは、科学を大きく進歩させた。新会社法もそうだろうか。人間社会に通用さ せる制度の規範は、物理世界のルールと基本的に異なり、人間の心に根ざし一般人の心に受け入れられるものでなければならない。論理操作最優先の無機質な ルールを規範とされたのでは、窒息しそうである。ひとりよがりの定義も、作ってしまえば押しつけてかまわない。こういう法律を理解させられ法律家が育てら れる世の中は恐ろしい。

 

7. 讃辞も述べよう。会社法の条文数が大幅に増えたのは、重複をいとわず準用をさけ、内容のつかみやすい規定作りを目指した結果である。従来は多数の規 定を一括準用することがあり、そのつど指を挟んで元の条文を探し、時には「入れ子重含む除くに読み替えパズル」で悩まされた(商法旧227条2項、旧商特 21条の36など)。この苦役から国民を解放した立案者は英雄である(会社法373条2項・740条3項など少しは残るが)。おかげで「結構毛だらけ猫灰 だらけ、会社の法律重複だらけ」になってしまった。苦役からの解放を要望した者の一人として複雑な思いもするが、会社法元年のやさしい副産物に対する喜び はきわめて大きい。

 

8.本書では「なじみ型」「原初型」の語を多用しており、これらは耳慣れないものであるため、栞でその内容を示すことにした。原初型は旧法の有限会社であ るが、会社法の規定はこれをベースに作られている。この定め方に忠実な記述をすれば「なじみ型」について述べるまでに、大会社・公開会社であればとか、取 締役会設置会社・監査役設置会社でしかも会計監査人設置会社であるる場合はとか、いくつもの条件をはさまなければならない。「なじみ型」の株式会社が何か特別 の、遠い存在になってしまったような錯覚に陥る。それよりは、単刀直入、従来普通に株式会社と考えられてきたものに適用されるルールから、まず説明を始め たい。制度上の原初型であろうと、数が多かろうと、私たちの意識の上で主流から外れるものについては、説明を後回しにするとか、コラムや脚注の記述で済ま せるなどしている。時間が経過して新制度が定着すれば、叙述の方法を見直す必要があろう。会社法の体系書もすぐれたものが多く出るだろうから、それを参考 に工夫していきたい。

 

9.前田雅弘(京都大学)、池田裕彦(弁護士法人大江橋法律事務所)、松尾健一(同志社大学)の皆さんには、原稿の点検をお願いし、それぞれ貴重な助言を いただいた。有斐閣書籍編集第1部京都編集室の一村大輔氏には、引用条文や出典の確認にまでわたり、困難な編集作業をこなしていただいた。皆さんに心から お礼を申し上げたい。いうまでもなく、内容についての責任は著者にあるが、皆さんからの指摘がなければどれだけ多くの間違いを犯したことかと考えると、背 筋の寒くなる思いがする。それでもない残る誤りを発見したときは重版の折に訂正していきたいと考えている。

 

2007年3月19日
明石海峡大橋の近くで、「法に心、心に虹」を願いつつ  龍田節