会社法事例演習教材

会社法事例演習教材

著:前田雅弘 北村雅史 洲崎博史 版:有斐閣 2007.10

会社法事例演習教材 京大教授陣の作成。京大ロースクールの実際の授業(法学既習者向け演習)で使われたレジュメをベースにした会社法の演習書が民法に続いて登場した。会社法上の重要なテーマについて、設問に取り組みながら理解を深めていくスタイル。
 比較的長文の事例が与えられ、複数の問いが設定される。問いは、基本的なものから段階的に難しくなっていくので、順にやっていくとすごく勉強になる。ただし、というか案の定、解答はついておらず、希に置かれている学問的にも定説がないような設問で困りはてることになる。予習で悩んだあとに、優秀な教員の指導により一定の筋道を与えられれば完全に消化できるだろうが、独学では悩みだけが残る。グループ学習で、「あーでもない、こーでもない」と議論するのであれば、基本的な知識や制度趣旨から考える訓練になるだろう。
 202ページと薄いが、内容はかなりヘビーな仕上がりなので、法科大学院生も基本書や判例集にかじりつくほどに苦しめられることもあるだろう。テーマごとに必読判例、参考判例、必読文献などが指定される。基本書は、江頭、龍田、神田などの該当ページにリンクされる。
 
 事実から問題点を導き出して解決する能力を養う「紛争解決編」と、会社の意思を実現するためのベストな方法を探る「紛争予防編」から構成される。
 第Ⅰ部の「紛争解決編」は、株式の譲渡/株主総会決議の瑕疵等/代表行為と取引の安全/競業取引・利益相反取引/取締役の報酬/取締役の会社に対する責任/取締役の第三者に対する責任/違法な募集株式の発行/設 立/株主代表訴訟/監査役・会計監査人/会社法総則の諸問題/譲渡制限株式の譲渡/役員の任務懈怠/支配人と会社登記。
 第Ⅱ部の「紛争予防編」は、株式・社債による資金調達/種類株式の利用/新株予約権の利用/株式単位の選択/自己株式の利用/株主総会の運営/委員会設置会社の利用/閉鎖会社における定款自治と株主間契約/持株会社の利用/合併/会社分割・事業譲渡/種類株式発行会社における譲渡制限株式・自己株式/トラッキング・ストックの発行とトラッキング・ストック株主の保護/株式移転と子会社が保有する親会社株式の処分。

会社法事例演習教材 はしがき

 本書は、法科大学院における会社法学習の教材である。法科大学院における会社法の双方向型の授業において、教材として利用されることを主に想定し ているが、授業とは離れて、法科大学院の学生諸君が個人又はグループで会社法の学習をする際に、素材として利用されることも期待している。
 本書は、第Ⅰ部「紛争解決編」と第Ⅱ部「紛争予防編」から構成されている。
 第Ⅰ部「紛争解決編」では、会社法に関わる法律問題のうち、しばしば裁判で争われ、裁判例となって現れることの多い12のテーマを取り上げられ、それぞれについていくつかの具体的な設例が掲載されている。
 第Ⅱ部「紛争予防編」では、大企業の企業法務が直面する実務上の諸問題について、主に、紛争を生じさせないための具体的な設例が掲載されている。「紛争 予防編」で取り上げた設例は、学生諸君にとってはなじみが乏しく難解に見えるかも知れないが、会社実務において、いわゆるビジネスプランニングは会社法制 定によりますます重要性を増しており、本書においては、最先端の問題も含め、プランニングに相当の比重を置いている。
 本書は、会社法上の問題を体系的に網羅するものではないが、第Ⅰ部および第Ⅱ部で扱う合計25のテーマにより、会社法上の現在の重要問題は、そのほとんどをカバーしたつもりである。

 各テーマの下にもうけられた各設例には、問題形式の設例文に続いて、KeyPoints、Question、Materialsが挙げられている。
 KeyPointsでは、当該設例において問われている中心的な問題の所在があらかじめ提示されている。これによって、まず読者は、設例ごとにどのような法的問題を検討しなければならないかの全体像を知ることが出来る。
 Questionにおいては、当該設例を実際に解決する際に考察すべき具体的な問題点が示されている。読者は、これらの具体的問題点を検討していくこと により、会社法に関する体系的な知識を事例に則して実際に使用する力を身につけ、会社法の理解を深めることが期待されている。
 Materialsでは、当該設例を検討する上で参考となる文献及び裁判例が掲げられている。参考文献は、無理なく読者が参照できるよう、体系書を中心 とした最小限の者に絞った。より深く勉強をしたいと考える読者は、当該参考文献の脚注党で引用された資料をさらに参照すると良いであろう。裁判例について は、それが設例全体に関係する場合もあるが、特定のQuestionにのみ関係する場合もあり、後者の場合には、特にQuestion番号を括弧書きで示 した。
 本書の各設例には、具体的な解答例は付していないが、本書が実際の授業で利用される場合のイメージをつかめるよう、第Ⅰ部・第Ⅱ部のそれぞれ最後に、 「授業のイメージ」と題し、3つずつの設例を挙げた。ここでは、実際の事業を想定し、各Questionについての具体的な解答例を示したので、授業の参 考にしていただきたい。

 執筆者3名(前田雅弘、州崎博史、北村雅史)は、京都大学法科大学院の開設以来、2年次の学生を対象とする「商法総合1」(前期)および「商法総合 2」(後期)の授業を担当してきた。本書に掲載した設例は、もともとこれらの授業の教材として作成したものである。すでに一通りの会社法の学習をすませた 学生諸君を対象に、法律家の養成を主眼とした授業を行うためには、教材として、適切な法的論点を含んだ具体的な設例を利用することが最も効果的であると考 えたからである。
 各設例には、具体的な裁判例を基礎として作成したものもあるが、特に具体的な事件とはかかわりなく執筆者が創作したものも少なくない。各設例の作成にあ たっては、テーマごとに作成担当者を決め、原稿を持ち寄って検討する会合を何度も重ねた。検討に基づいて加筆修正を重ねた結果、各設例におけるすべての法 的問題について全員の意見が必ずしも一致したわけではないが、各設例において検討すべき論点が何かについては共通の理解を得るに至ることが出来た。このよ うな共同作業を通じてできあがった本書は、真の意味での共著であるということができ、執筆分担箇所をあえて示していないのは、そのためである。
 各設例の原型は、法科大学院開設の初年度終了時に一通りはできあがっていたが、その後平成17年に会社法が制定され、大幅な見直しを余儀なくされた。ま た、現実に授業を行う過程で、学生諸君から質問等の形で貴重な指摘を受けることが少なくなく、そのおかげで、各設例は原型からはずいぶん改良された姿に なった。熱心に授業に参加してくれた学生諸君に、この場を借りてお礼申し上げる。
 本書の刊行にあたっては、有斐閣書籍編集第1部の土肥賢氏および大原正樹氏に多大のご配慮を頂いた。心より感謝の意を表したい。

2007年12月 執筆者一同